www.youtube.com仕事帰りの夜道。
踏切、降りた遮断機の前。
私のすぐ隣で、自転車にまたがった60代とおぼしき男女が並んで待っていた。
女性が敬語を使っており、その会話を聞く限り、夫婦ではないらしい。
上りと下りの西武線が我々の前を過ぎ去り、遮断機が上がった時だった。
「明日、波平が来られないらしいよ」
「え?波平来ないのですか?」
このように「波平」と漢字で書いているが、実際、波平かどうかは分からない。
浪平かもしれないじゃないか。
でもやはり、我々日本人にとってナミヘイは「波平」であり、日本の厳格な父である。
その波平が来れなくなった。
どこに?
何をする予定だった?
あの二人との関係は?
線路を渡り、遠くの闇に2台の自転車が消えてゆき、自宅まで1分ほど歩く間、私は波平という名前が持つ意味を考えた。
波が平ら。
穏やかな海だ。
ゼーヴィントとはドイツ語で潮風の意味であるらしい。
夏が近づき、宝塚記念が終わってしばらくすると、私はまた年齢を一つ重ねる。
同じことの繰り返し。
波平は、皆の心の中に生きている。
そして私も、一人の波平である。